快晴。
今日は正にそう呼んでもいいほどに、晴れ晴れとしている。
空に存在する僅かな雲は、圧倒的な青の前に今にも消え去ろうとしている。
その青空を鳥達は気持ちよさそうに飛んでいる。
太陽は相変わらずの激しさで、地べたに存在するモノを等しく照らす。
お蔭で気温は著しく上昇し、人の感覚で暑いと呼べるレベルにまで到達する。
街を歩く人々は、少しでも涼しくと皆薄着をしている。
例の事件の後も異常気象は直らず、人々は一年中この暑さと戦う。
長袖など着る人間など皆無に等しく、ましてやコートなど羽織っていようものなら一斉に好奇の視線に晒される。
異端というものは常に注目を浴び、そして孤立する。
いい例が身体に障害を持った人達で、一般の人達は関わる事を避ける。
孤独というのはとても辛い。
誰にも理解されず、相手にされない。
結果、貧弱な心を守る為に人は自らの殻に閉じ篭る。
人間というのはとても厄介に出来ており、閉じ篭るのは簡単だが出てくるのが非常に難しい。
俗に言う壊すのは簡単だが元に戻すのは難しいとは逆である。
話は逸れたが、この第三新東京市にもその異端が存在する。
一年中暑いというのに長いロングコートを羽織り、黒いサングラスで目元を隠し、日差しを避けるためか帽子も被っている。
その異端は堂々と街中を歩く。
しかし人々はその異端を見る所か、視界に入っているというのに反応すらしない。
異常なのはその格好をしている人物なのだろうか?
それとも、その異端が視界に入っているというのに反応すらしない人間の方なのだろうか?
否、そのどちらもなのだろう。
どちらもが正気に常軌を逸している。
異常とも言える格好をし、堂々と街を歩く異端とそれに気付きすらしない人間。
このおかしな光景が常日頃繰り返されているのが、この第三新東京市である。
そしてその異端の名は―――嘗て碇シンジと呼ばれたその人であった。








The sink into oblivion









紅き絶望から早三年。
街は復興し、人々は活気を取り戻す。
かつてあった動乱は記憶の深くに押し込められ、今ある現実に人々の目はいく。
過酷な過去は忘却され、平穏な現在がこの街を支配している。
そう、一度全てが終わった第三新東京市という名の楽園。
この街は楽園であるが故に平穏でなければならない。
人の希望の象徴であるが故に、絶対として存在しなければならない。
そしてその絶対を守る守護者がネルフと呼ばれる組織である。
かの使徒大戦時に常に最前線で戦い続けた組織。
そこにどのような思惑が隠されていようと、人々に伝えれられるのは都合よく脚色されたものでしかない。
しかし人間という生き物はこれをいとも容易く信じる。
世界中で一斉報道された事を誰が疑うだろうか。
テレビで報道されるニュースをいちいち疑いながら観ている人間はいるだろうか?
いるかも知れないが、そんな人は余程の変わり者か人間という生き物を心底信用していない人ぐらいだろう。
物事に対していちいち疑ってかかればきりが無い。
そしてそんな事をしながら人間の世界で生きていく事は事実上不可能だ。
人間の世界で生きていくには信用というのがとても大切なのである。
そしてネルフはあの混乱の時期を巧い事立ち回り、結果絶大な信頼と絶対の力を手に入れた。
勿論それには総司令碇ゲンドウの外交手腕もあり、ゼーレという絶対悪にしやすい組織も存在していたからである。
あの時期、人類全体が立ち直る為には誰かが在るべき方向へ導いてやらねばならなかった。
ただそれをネルフ、そして碇ゲンドウがやっただけである。

三度に渡るインパクト。
セカンドインパクトだけでも息切れを始めていた人類に、正に止めの一撃になる筈だった。
だが、実際に起こったそれは結果としてサードインパクト以前の世界と殆ど変わりが無かった。
変化といえば、人類の総人口の二割があの紅い海から還ってこなかったぐらいである。
ただこれは現在確認されているだけの数であり、実際はさらに上をいくものだと考えられている。
還ってこなかったと言われている人々は、皆何処かずれていた人間達である。
犯罪を犯して捕まった者、行動や言動が奇怪な者など一般社会に溶け込めていない人物達だった。
現在、ここに現存している世界は言わば都合のいい世界そのものである。
―――それが誰にとっての都合かは解らないが。


三年前は未完成だったこの街も今は立派に完成している。
それに伴い人口も増え、名実共に日本の首都になっている。
碇シンジはうんざりする程多い人込みの中を歩いていた。
長いロングコートを羽織っているにも関わらず、汗を全くかかず涼しげにしている。
彼が人間に気付かれなくなってもう三年が経つ。
始めのうちはどうにかして気付いてもらいたくていろんな事をした。
この服装もそのうちの一つであった。
ただ、それも時が経つにつれ無駄な努力と知り、いつしかこの姿で歩く事が趣味になりつつあった。
どんな格好をしようとも誰にも注目すらされないし、何をしようにも咎められる事はない。
世界はこんなにも人に溢れているのに、自分一人だと錯覚させられる感覚。
しかしその感覚もいまや慣れ親しんだものでしかない。
この数多の人も、僕という完全種の前ではただの背景に過ぎない。
その考えに行き着いた時、彼の人に対する関心は急激に失せていった。
以来、お気に入りの格好で街に繰り出し背景を観察する事が彼の唯一の日課になっている。

しかし本当に詰らない。
この街は事件という事件とはまったく無縁のものに成り下がった。
今思えば三年前が懐かしくさえ思えてくる。
ネルフという絶対正義がこの街に君臨する限り、未来永劫事件なんて起こりはしないだろう。
いっそのこと、この有り触れた詰らない日常を壊してやろうかと思ったが、それは余りにも芸がない。
それに僕自身が犯した事件なんて面白くもなんともない。
ただ動くだけの人形達に何をした所で、反応が無いのは解り切っている。
知ってるかい?
まだ人を求めていた頃の僕は、気付いて欲しい余り人殺しもしたんだぜ?
場所は夕方人で溢れ帰る商店街、その中心だ。
ご丁寧にも胸を刃物で刺して、しかもしっかりと指紋の残ったそれを現場に残し、尚且つ僕自身もその場に留まった。
勿論周りは大勢の人間で溢れている。
しかし、だ。
その死体に下された決断は自殺だとよ。
周りにいた人間は、どいつもこいつも突然刃物を取り出して自分を刺したと証言してたよ。
刃物から検出された指紋も本人のものと一致しただってさ。
これには流石の僕も唖然としたよ。
だってそうだろう?
公衆の面前で人を殺したのにも関わらず、お咎めなし所か、そんな事件を起こしたにも関わらず気付かれもしなかった。
指紋だってどこをどうみればそうなるのかって話だよ。
この辺りからかな。
人間に対する興味が失せてきたのは。
僕という完全な個体と人間という不完全な群体は決して相容れる事はない。
僕は彼らに気付いているのに彼らは僕に気付かない。
僕は彼らが見えているのに彼らは僕が見えていない。
完全な一方通行さ。
「ああ、どうして世界はこんなにも退屈になってしまったんだろうか…」
声に出しても何かが変わるわけではない。
でも声を出さずにはいられない。
それほど、今この世界は退屈だ。

ドンッと通りすがりの男と肩がぶつかった。
男はよろけるも倒れはしなかった。
体もがっちりとしている。
「すまんなぁ」
男は僕の方に振り返りそう言ってきた。
おや?
この男は僕の事を認識出来るのか?
―――僕は、本当に、本当に久し振りに人間という生き物に興味を持った瞬間だった。
「君の方こそ大丈夫だったかい?」
「ああ、わしは身体だけは丈夫やさかい」
しかしこの男。
チャラチャラした感じかと思ったがそうではないらしい。
見た感じ髪は金髪、耳にはピアス、少し大きめな服を着て見た目にはだらしない感じ。
レンズが赤みがかったサングラスを掛けていて、腕の所にはチャラチャラと音がするアクセサリーを付けている。
見た目と中身が違う典型かな。
「しかし、あんたも妙な格好をしてるなぁ。暑くないん?それ」
「いやいや、全然全くさ。僕は汗をかかない体質なんだよ」
「それは羨ましいなぁ」
この男。
随分と普通だな。
余りにも普通で拍子抜けだ。
つまらないな、せっかく僕を認識できる人間なのに。
「しかしあんたの声を聞いてるとなんか懐かしい気分になってくるわ。あんたによう似た声の親友がおったんや」
「へぇ。その親友はどうしたの?」
「…判らんのや。誰に聞いても皆知らん言いよる。まるで始めからおらんかったみたいに…」
「ふ〜ん。ちなみに何て言う人?」
「…碇シンジや」
「おや?奇遇だね。僕も碇シンジって言うんだよ」
「なんやと!?」
男はじっと僕を見る。
男に見つめられるのは気色が悪い。
「…ほんまにシンジか?」
「いかにも僕は碇シンジだけど。君は誰だ?」
「わからんか?わしや、鈴原トウジや」
鈴原?
…聞いた事があるようなないような。
「………」
「中学ん時同じクラスやった、ほらわしらは三馬鹿トリオ呼ばれとったやんか」
三馬鹿トリオねぇ…
う〜ん…
「ほら、今はこんな格好やけど中学ん時はいつもジャージ着てた…」
ジャージ…
その時一つの光景がフラッシュバックする。

―――すまんなぁ、転校生。わしはお前を殴らないかん。殴っとかな気がすまへんのや。

…ああ、そうか。
思い出したよ。
鈴原トウジ。
仕組まれた子供、フォースチルドレン。
「ああ、思い出したよ。久し振りトウジ」
「おお、そうか。やっぱりシンジやったか。今まで何しとったんや?心配したんやで」
「いろいろあったんだよ。今は…観測者をやっているのかな」
「観測者?何や、それは?」
「まぁ、立ち話もなんだしそこの公園のベンチにでも座らない?」
「それはええけど…」
随分と久振りだし、君も聞きたい事があるだろう?
僕を認識した第一号として、何でも答えてあげるよ。


「シンジは何飲む?」
「僕はコーヒーでいいよ」
都合よくベンチの近くに自販機が置いてあった。
恐らく長話になりそうだし、飲み物でも飲みながら話そうということになった。
しかし、まさかトウジとはね。
正直、予想だにしなかったのも事実だ。
仮に僕に気付く存在がいるとしたら、てっきり綾波辺りだと思っていたけど。
「ブラックでよかったん?」
「ああ、基本的に何でもOKだからね」
「さよか…」
「さて、聞きたい事があるんだろ?基本的に何でも答えるよ」
トウジは暫く、何かを考えている風だったがやがて口を開いた。
「惣流達が今何してるか知ってるか?」
「いや、知らないな。世界中の人々の憧れの英雄様達の事を、僕が知ってるわけないだろ?」
「あいつらは今普通に高校生しとるわ。偶にエヴァに乗って、シンクロテストをする位や」
「へぇ。まだ乗れたんだ?」
「ああ、今の弐号機からキョウコさんをサルベージするのは危険なんやそうや。下手したら魂そのものが消えてしまうかもしれんらしい」
まぁ、一度不完全に肉体だけサルベージしてしまったからね。
肉体がないのにサルベージなんて出来るわけがない。
魂と波長があう肉体を創る事は人間では不可能だし、いかにエヴァといえども非常に難しいからね。
「綾波は渚とうまいことやっとるわ。わしから見てもあいつらはお似合いや」
あの二人はうまいこと人間になれたようだしね。
使徒の力を全て失う事と引き換えにね。
まぁ、アルビノは直らなかったみたいだけど。
「ミサトさんは加持さんと結婚したんや。あの二人の熱々っぶりは見てられんわ」
加持リョウジは死んだと見せかけて生きていたようだ。
あんな遺言じみたものを残したんだし、こうなる事は楽に予想できた。
「リツコさんは今綾波と暮らしてるんや。外から見てても本当の親子のようや」
赤木リツコ。
サードインパクト直前に死亡した哀れな人。
綾波を引き取るのは予想外だったけど、毒が抜けてまともになった証拠なのだろうか。
「惣流は相変わらずやな。…実は今、わし惣流と付きおうてるんや」
「ふ〜ん」
「…驚かんのか?」
「いや、充分驚いてるよ。てっきり洞木さんとくっつくとばかり思っていたから」
「…ヒカリは死んだんや。二年前にな…」
「死んだ?それまたどうして?」
「…交通事故やそうや。わしが病院に駆けつけた時にはもう…」
「そう…」
「…ケンスケも変わってへん。懲りずに戦艦やらを追いかけとるわ」
「トウジは?やっぱアス…っと、惣流さんと同じ高校に通ってるの?」
「無理に呼び方変えんでええで。お前らは昔からそう呼んでたんやから」
「サンキュ。で、同じ高校通ってんの?」
「…高校には行ってへん。わしにはああいう空間は辛い…」
「じゃ、何を?」
「…エヴァにな乗っとるんや。参号機にな」
参号機?
あれには新しい魂をインストールする必要がある筈だ。
となると…
まさか洞木さんをインストールしたのか?
やはり手駒を増やす為だろうねぇ。
可哀相に。
「…なあシンジ」
「ん?」
「…どうして誰もお前の事覚えとらんのや?綾波もミサトさんも、司令まで知らん言いよる。これはどういうことや?」
やっと本題を切り出してきたね。
正直、今まではどうでもいい話ばかりで退屈だったよ。
「トウジはサードインパクトの事をどれだけ知ってる?」
「ゼーレゆう組織がサードインパクトを起こして、それを何とか防ごうとしていたのがネルフやろ?」
「それは世間一般用の模範解答だ。じゃあ具体的に聞こう。ゼーレと言ってもね、ゼーレの誰が、
どのような方法でサードインパクトを発生させたんだい?」
「それは…」
「分からないよね?その辺りが凄くあやふやになっている。特にどうやってサードインパクトを発生させたと聞けば答えられる人間はいないだろう」
「………」
「おかしいと思った事はない?零、弐、参と続いているのに壱がない事を誰も疑問を懐かないことをね」
「壱ゆうと…」
「そう、初号機だ。あの碇ゲンドウが固持し続けたエヴァンゲリオン初号機だよ。あの機体は一体何処へ行ってしまったんだろう?」
「………」
「まあ、初号機の行方はこの僕にもいまいちよく判らないんだけどね」
「………」
「さて、ここから先は君の選択しだいだ。本来は知らなくていい、知る必要のないことだよ?
そしてそれはネルフにとってもっとも知られて欲しくないものでもある」
「………」
「まっ、今の彼らは覚えてはいない事だろうけど」
「………」
「さて、どうする?」
暫し場を沈黙が支配する。
こんなに話をしたのは久し振りだ。
さて、どう出るトウジ?
「…教えてくれへんか」
「いいのかい?今までのようにネルフを信用できなくなるかもしれないよ?」
「…かまへん。男に二言は無い」
「そういうことならば。本当にいいね?」
トウジは無言で頷いた。
「じゃ、まずはサードインパクトについて。これを起こそうとしていた組織は二つある。一つはゼーレ。もう一つは碇ゲンドウ率いるネルフだね」
「なっ!?ネルフは人類を守ることが使命の筈やろ!?それが…」
「碇ゲンドウがサードインパクトで望んでいた事は唯一つ。失ってしまった妻に今一度会うという馬鹿馬鹿しい事さ」
「………」
「父さんは自分の目的の為に人類と一緒に無理心中をしようとしていたのさ。対してゼーレの方は不完全な群体である人類に限界を感じ、
完全な個体にしようとした。言ってしまえば使徒と同じく単一の存在にね。その為には依り代が必要だった。そしてその依り代はエヴァに乗れて、
尚且つ自分達の操り易い人物でなければならなかった。エヴァに乗れる人間は限られる。あの時点では、僕、アスカ、綾波の三人だった。
綾波に関しては碇ゲンドウの秘蔵っ子と思われていたし、自分達の思い通りにはならないだろうと判断された。
アスカに関しては幼少の頃からのマインドコントロールの成果により、随分と壊れやすく成長し、いざという時のスペアにまわされた。
乗っている機体が弐号機という事も関係してね。
そして僕。親と切り離す事で親の愛情を求めるように育てる。これは父さんの考えだね。僕が母さんを求めるように、自分の下から遠ざけた。
ゼーレの方は、インパクト発生時に自分達の願いが叶えられなければ意味が無い。つまり心というものが無ければ良かった。
もしくは約束の時までに心を壊せればよかった。
その為の切り札が第十七使徒。人型で現れたソレは僕の心に取り入り、そして僕自身で倒させる事によって、心の崩壊を誘った。
そしてそれは見事に成功した。
だが、いざ約束の時になって手違いが生じた。まずは父さんの計画の方だ。リリスの自己の目覚めとその願いが父さんの計画を失敗に導いた。
ゼーレの方は初号機とそのパイロット―――つまり依り代を神の座へ導き、その願いを反映させる形で完全な個体を目指そうとしていた。
しかし、依り代の心は壊れきっておらず、ソレは再び人類が在る事を望んだ。結果二つのサードインパクトはどちらも不完全な形で発動し、
どちらも失敗。一度は溶け合った人類も再び群体に戻り、リリスにより再び世界は再生された。
これがこの世界で起こったサードインパクトの全てだ」
「………」
「まぁ、ゼーレの計画の方は一度は成功したのさ。ほら、サードインパクト前後の記憶があやふやだろう?
その時間こそ人類が完全な個体になっていた時間だ」
「………」
「余りの事に言葉がない?でもこの世に完全な善人なんていやしない。皆どこか心に闇を抱えている。
ただ、ネルフやゼーレはそれをオープンにし過ぎただけさ」
「……お前は辛くなかったんか?」
「あの当時は辛かったよ。追い詰められていたからね。でも今となってはいい思い出だ。
こんな何も無いつまらない世界よりは、あの当時の方が充実していた」
「………」
「さて、どうして誰も僕の事を覚えていないのかだったよね。結論を言えば僕にもよく判らない。気が付いたら誰も僕を認識しなくなっていた。
ただそれだけさ」
「………」
「ただね、推測は出来る。トウジはこの世界が本当の世界だと思うかい?」
「…どういうことや?」
「あの紅い絶望が今でも続いているとしたら?これは母なるリリスが見ている夢だとしたら?」
「そんなこと…」
「ないとは言えないよね?少なくとも君にはそれを確認出来ない。仮想現実と現実の区別はそこにいる登場人物では絶対につけられない」
「………」
「ならば誰がつけるのか?それは其処には存在しない第三者さ。この場合は僕だ。この夢には僕という登場人物は出て来てはいない。
始めから設定すらされていない。故に、この世界の住人は僕を認識できない。
三次元から四次元に干渉する事は出来ない。だが逆は可能だ。僕という存在は此処においては四次元なのさ。
だから僕は三次元の物理的法則を無視出来る。
そして四次元の世界は三次元の世界にいる限りどう足掻こうと想像する事すら不可能さ。ならば視覚や認識が出来なくても何の不思議も無い」
「でもわしは…」
「そうだね。そうすると君の事が説明できない。三次元でも認識され、四次元も認識できる。しかし君は四次元にいる存在ではない。
この世界の人間だ」
「………」
「でも、君が不安がることは何も無い。三次元やら四次元なんて話もどうでもいい。これらはほんの一例。安心していいよ、トウジは至って正常だ」
恐らく君が僕を認識できるのはバルディエルの影響だね。
綾波やカヲル君はきちんと人間として復元されたが、トウジはそのまんま復元されたんだろう。
いかにリリスといえど、そんな僅かな差には気付かなかったみたいだね。
「まっ、この世界がリリスの夢でない事は僕が断言しておくよ。きちんとこの世界は再生された。それは僕の名において宣言しておく」
「………」
「そうだね、君が僕を認識できる事については、それが今の君の力だとでも言っておこうかな」
「…わしの力?」
「そっ。今の君は特別だって事さ」
「………」
「すっかり話し込んじゃったね。僕はもうそろそろ行くよ」
そう言って残っていた缶コーヒーを飲み干す。
きつい苦味が口に広がる。
でもそれが心地良かった。
「…また…会えるか?」
「君がそれを望むなら」

そう言ってシンジは消えた。
完全にこの場から消え失せた。
今までわしの隣にいたというのが嘘のように。
ベンチにはわしだけが残された。
正直、この事実はわしにとってもきつかった。
信じていたものが少しずつ崩れていく感覚。
ネルフ、ゼーレ。
一体なにがよくてなにが駄目だったのか。
わしらだけが幸せに暮らして、シンジは孤独の世界を歩いとる。
それがサードインパクトの結末だとでもいうんか?
シンジ以外が幸せに生きれる世界?
…そんなもん、認めへん…
けど、今の世界を手放す事なんてわしには無理や。
ヒカリが死んで、絶望状態だったわしをここまで引き戻してくれたアスカの為にも。
わしはいつからこんなに弱くなってしもたんやろか…
残っていたコーヒーを一気に飲み干す。
「わしはどうすればいいんやろか…」
その声は虚しく虚空へ消えていった。



僕は再び街中を歩いている。
空は暗くなり始め、街は会社帰りの人で溢れ始めている。
久し振りに有意義な時間を過ごせた。
素直にそう思う。
トウジか…
僕の記憶に残っている姿とは随分と変わっていた。
三年という時間を改めて感じる。

―――結局は僕以外が先に進んでる。

―――未だ僕の時間は止まったままだ。

それが改めて実感できた一日だった。

 


あとがき

初めてのあとがきになります、七堂です。
いろいろ練ってるうちにこんなんになってしまった。
書き方も少し変えました。
それなりの設定も考えました。
で、反響のいかんによってはいずれ連載するやもしれません。
あんま響かなかったらこのまま短編で終わります。
それでは、また。



back


[PR]DoCoMoご利用の方必見!:無料の運命鑑定≪スピリチュアルの館≫